1965年生まれのブラウン氏は2006年に米国ファッションデザイナー協議会(CFDA)の最優秀メンズウエアデザイナー賞に輝き、当代最高の紳士服の作り手としての評価を確立した。名門「グッチ」を立て直したトム・フォード氏と並べて、「ダブル・トム」と称される、現代ファッション界のキーパーソンだ。
「ブルックス ブラザーズ」はアメリカントラッドを体現する大御所ブランド。米国に限らず、日本でも政財界のリーダー層にファンが多い。
安倍晋三・前首相も先の参議院選で身にまとって演壇に現れた。「40歳を過ぎたら、男は自分の顔に責任を持て」という名言を残したリンカーン大統領は撃たれた瞬間も「ブルックス ブラザーズ」のコートに身を包んでいたという。ルーズベルト米大統領がヤルタ会談で着込んだケープも「ブルックス ブラザーズ」だった。
日本ではまだ江戸時代後期の1818年にヘンリー・サンズ・ブルックスがニューヨークで創業。ブランド名はこの創業者に由来する。以来、189年の歴史を誇り、アメリカントラッドの歴史を生み育ててきた。
創業者の孫のジョン・ブルックスがポロ選手のシャツから着想してボタンダウン・シャツを初めて商品化した神話も持つ、アイビールックの伝説的ブランドだ。もっとも、「ブルックス ブラザーズ」自体は「トラッド」という言い方はせず、「アメリカンクラシック」という表現を使っている。
ケネディ大統領が時代のアイコンだった60年代を思わせるアメリカントラッドの香りたっぷりのデザインがさえる。ブラウン氏は自らの名前を冠した「トム・ブラウン」ブランドで、短め丈(クロップト)のパンツやジャケットで注目を浴びた。一見して動きのある丈の新提案で、トラッドスタイルに変革をもたらした。
「ブラック フリース」は必ずしもすべてがクロップト丈ではないが、いくらか短めの丈も見える。「ブルックス ブラザーズ」の正統派トラッドを尊重したブラウン氏なりに折り合いを付けた格好だ。折り返しの幅を厚めに取ったパンツ裾にも才気がのぞく。
ヒツジにリボンを巻いた「ブルックス ブラザーズ」伝統のロゴマークをいくつもあしらったジャケットはブランドの重みを忍ばせつつ、軽やかな表情に仕上げた。老舗ブランドへのリスペクトを表した逸品だ。
生地には伝統的なツイードやヘリンボーン、カシミアなどを用い、クラシックな風合いを醸し出している。襟にベルベットを配したジャケットはクラス感が際立つ。
伝統的なチェック柄には大胆なアイデアを持ち込んだ。白地に赤と黒のチェック柄という、目を引く色合わせで、チェック柄に明るく若々しい表情を与えた。このチェックは「シグネチャータッターソール」と呼ばれ、「ブルックス ブラザーズ」のアーカイブの中からブラウン氏が選んだ。
ディテール(細部)へのこだわりはブラウン氏の代名詞とも言える。「ブラック フリース」でもその丁寧な目配りは存分に生かされ、グログラン(横うねのある平織りの織物)やハンドステッチ、くるみボタン、刺繍、ファートリムなど、お得意の技法・素材が持ち込まれた。
タイトなシルエットが新鮮だ。細身のフォルムに、自然と背筋が伸びるような品格がにじむ。スーツやジャケット襟も細めだ。
背中の上端にはフックに引っ掛けるのに使う小さい輪(ロッカーループ)が外側に付く。本来ならば隠しておくような部分をわざと外に出してみせる遊びだ。スーツにもジャケットにもベストにも付いている、「ブラック フリース」の目印的モチーフだ。靴のかかと部にまでついているのが面白い。
「ブラック フリース」はウィメンズウエアも展開している。クラシカルなプリーツスカートや、メンズライクなクロップト丈のパンツスーツなどを提案。優雅なストール使いはブラウン氏らしい。スーツではネクタイまで組み合わせ、マニッシュな「ダンディーレディー」を呼び起こしている。
価格はメンズのスーツが約40万円、ジャケットが約30万円と、オーダーメードを除けば、「ブルックス ブラザーズ」では最も高額な最高級ラインとなっている。ただ、絶頂を極めつつある才能を買う対価としてはふさわしいプライシングとも言える。
小物や皮革製品も用意されていて、ウィメンズの飛び抜けて大きい横長クラッチバッグはウイットの利いたアイテムと見える。チェーンで斜め掛けにもできる。大人の遊び心を刺激してくれるオーバーサイズの造りだ。パーツはすべてスターリングシルバーを使っている。
先行した伊勢丹新宿店・メンズ館(東京・新宿)に続き、日本法人直営店の「ブルックス ブラザーズ銀座本店」(東京・銀座)でも9月から本格的にラインアップがそろい始めた。メンズは国内では当面、この2店舗だけでの取り扱いとなる。ウィメンズはメンズ・ウィメンズ両方を展開する銀座本店と、伊勢丹新宿店本館のウィメンズ店の計2店がある。入荷数が限られているレアアイテムだけに、今のタイミングで買えば、しばらくは「トム持ち」の優越感に浸れそうだ。
2004年にオープンした銀座本店は国内最大規模のフラッグシップ・ショップだ。地上2階、地下1階のゆったりした造りで、優雅な気分を味わいながらショッピングやオーダーが楽しめる。「ブルックス ブラザーズ」としては日本で初めて本格的なオーダーサロンを設けている。本当に体型に合う1着を、アメリカントラッドの粋を知る「ブルックス ブラザーズ」に仕立ててもらえる。
・ブルックス ブラザーズ http://www.brooksbrothers.com/
タグ:メンズ ファッション
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